移民問題、それは人間同士の共生を考えること
隅田川自治β ダイヤローグ③
コムアイ(アーティスト)
望月 優大(ライター)
東東京には、多くの外国籍の人たちが暮らしています。多くの外国籍の人たちと、彼ら彼女らと私たちは、いかにして共生していけるのでしょうか。トッピングイーストのリサーチプログラム「BLOOMING EAST」で多くの外国籍の人たちと出会い、『隅田川怒涛』でパフォーマンスを行ったアーティストのコムアイさんと、移民問題などに取り組むライターの望月優大さんのお二人に、多様な文化背景を持つ人たちと同じ地域住民として暮らすために私たちができることをテーマに、対談いただきました。
——本日はよろしくお願いいたします。コムアイさんとは、リサーチプログラム「BLOOMING EAST」で東東京にいる人たちと出会いながらアウトプットを目指す取り組みをご一緒しています。リサーチではここまで3年間、在日の方や多国籍な移民の方々と出会ってきました。『隅田川怒涛』でも、そうした経験をもとに、難民として日本に暮らすイラン出身の女性レイラ・パクザッドさんとのパフォーマンスを行うことになりました。
コムアイさん(以後、コムアイ):リサーチプログラムを通じて、色んな外国籍の人と話をさせてもらいました。それこそ、最初は何も知らなくて「難民申請ってなに?」みたいな感じでした。日本に難民がいることは知っているけど、その人たちがどういう生活をしているのか、難民申請が通らないとはどういうことなのか、日本で暮らすことの現状や難しさを感じることができました。仕事に就けなかったりいつまで滞在できるかも分からなかったりする、そんな状態では将来設計も立てようがないですよね。
以前、自分が外国に行った時、色んな人たちから助けられて、救われたような時もありました。自分は何も提供できていないのに色んな文化を教えてもらったりと、まるでホームに受け入れてもらったような、そんな気持ちすらしました。
お会いした日本に滞在している外国籍の人は、日々懸命に、それでいて人間味ある振る舞いで接していて楽しい人ばかり。中には生まれも育ちも日本という外国籍の人も増えたけど、そうした人たちが制度から見落とされている。一方で、人手不足で色んな外国籍の人たちに仕事を依存してる部分もある。外国人支援をしてる人たちの善意に依存してる状態で、健全ではないと思っています。彼らをしっかりと受け入れていくのであれば、みんなが共生していくことに対して彼らの目線になって対応していかないと。そのための公的支援やセーフティーネットといったものがとても大事だと感じるようになりました。
写真:『隅田川怒涛』「天空の黎明」で、互いの故郷の歌を教え合うコムアイさんとレイラ・パクザッドさん ©︎三田村亮
望月優大さん(以下、望月):日本社会はそこに染まっていないとすごく生きづらい社会だという気がします。暗黙のルールや求められる振る舞いというのがあって、そこから逸脱するのが嫌われる。家庭でも学校でも会社でも。外国籍の人もそうですし、子どもや女性など、それぞれの立場にいる人たちに対して色んなことが期待されすぎたり強制されたりして生きづらくなっているところがある社会だと感じます。
コムアイ:望月さんが移民問題に取り組もうと思ったきっかけはなんだったのですか?
望月:元々旅行が好きで、色々な国の移民街などに行くのも好きだったのですが、同時に移民に対する排斥という問題があることも知りました。学生の頃に欧州に行った時も移民やイスラム教徒の排斥問題で揺れていました。戦後復興のために労働者として大量に移民を受け入れていた時期があった。けれども、ある時期から移民排斥の動きが顕著になって大統領選などの争点になったりもしています。
外国ではものすごいことが起きているなと関心を持っていたのですが、自分も含め日本国内のことに意識を向けられていないことにも気がつきました。在日コリアンの方など戦前の植民地支配につながる人々や、比較的最近になってから労働者としてやってきた人も多くいますが、移民というテーマを重要視している人は日本ではあまり多くないと思います。
構造的な視点で見ると、人口減少が進み、若い人が減り続けて、労働力が足らない状態になっています。その状態がますます加速していく中で、すでに外国からの人に頼らないと経済も社会全体も成り立たなくなっているのが今です。例えば教育や社会保障と同じように選挙などでも争点として考えないといけないはずなのに、いまだに十分に議論されていないのが移民という主題だと思っています。
コムアイ:たしかに、選挙や政策には入ってこないですよね。けれども、移民問題は当事者が困るだけでなく私たちも困るわけで、全体としてきちんと向き合っていくべきですよね。
望月:例えばこれから外国人労働者の受け入れをどうするか、増やすのか減らすのか、というのは広く議論をして方向性を考えていくべき重要な政策です。ですが、大きな議論なくいつの間にか特定の形での受け入れが加速しているというのが現状です。
90年代、バブル期の労働者不足もあり、日系3世の方までを受け入れる政策が始まりました。自動車産業が盛んな地域などには大勢の日系人が出稼ぎに来ました。外国人の中でも日系のルーツということで受け入れやすかった部分もあったのかもしれません。出稼ぎに来た人の多くも、受け入れた社会の側も想定していなかったと思いますが、今も日本で暮らしている人がたくさんいます。日本で結婚したり子どもができたりということもあって、定住化が進んでいったんですね。
コムアイ:長期で滞在する場合、何年住むかとかは、本人達も決めずに来るのが自然だと思います。お金が貯まったら帰ろうとか、仕事が合ってたらもっと長くいたいなとかで、そうしたことも、ちょっと考えれば想像できそうなものなのですが、そうはならなかったんですね。
望月:しかも、残念ながらそうした定住という結果を、日本政府として必ずしも望ましいことと思っていないように見えるところがあります。例えば現在受け入れの主流になっている技能実習生に対しては明確に滞在期間の上限を定め、家族の帯同も認めていません。あえて定住できない制度にしているわけです。
とはいえ、そうした仕組みが雇う側にとって良い点ばかりでもないのです。少しずつ仕事や日本語を覚えて、そのまま残れれば昇進してということだってありえるでしょうが、そうこうするうちに帰国の時期になってしまう。するとまた別の人に来てもらわないといけない。定住を想定せずそのために期間を限定することが、結果として人手不足の解決や技術の向上、継承を妨げてしまうということもあります。
コムアイ:技能実習生を5年やった後に、何か別の形で会社に残る方法ってあるんですか?
望月:それが、最近できた特定技能制度です。技能実習は技術や知識を日本で学んで、自国に帰って還元するという国際貢献的な名目の制度ですが、実際には働く人も雇う人もそうは思っていなくて、単に働くための仕組みだと考えている。そうした状況の中で、就労目的の在留資格を新設した形です。ですが、それで技能実習を置き換えるのではなく、技能実習の後ろに特定技能を接ぎ木するような形になっています。根本的なところからの議論がされないままに、色々な制度を作ってもっと多く働けるようにしているというのが実情です。
コムアイ:移民が日本人の仕事を奪うということが言われていますけど、実際はその逆で、移民や技能実習生を受け入れてその力に頼っているのが現状なんですね。
望月:外国籍でも何世代にもわたって日本で暮らしている人もいますし、最近来た方も含めて一つの社会を構成しています。ですが、そういう認識よりも、むしろ日本が受け入れてやっていると上から目線で見ている人も少なくないのではないでしょうか。差別もさまざまな場面で起きています。こうした現状を変えるには、自分が差別しないだけでなく、誰かが差別をしていたら止める、Noと言うことが大切です。これを反差別と言います。
コムアイ:他の人がやっていることを止めないことで、また他の誰かの自由を奪っているかもしれない。誰かの自由をしっかりと守るためには、介入する必要もある。
望月:日本では意見がぶつかることを「揉めごと」とネガティブに捉える風潮があるように思いますが、差別は止めないといけないですし、それ以外の場面でも、誰でも考え方が違うわけですから、それぞれの意見を伝えながら議論するための技術を身につけていくことが大切だと思います。
コムアイ:難民や技能実習生の現状はとても辛い環境にあります。移民政策の制度をどう今後変えていくべきですか?
望月:日本はいわゆる「日本人」だけが暮らしていて「日本人」だけのものなのだという誤った認識を変えていく必要があると思います。日本社会ではこれまでも様々なルーツを持つ人が暮らしてきましたし、これからもそうであることは変わりません。
政策という意味では、移民は人間ですから人間に関わる全ての政策領域、全ての省庁が関わることになります。そこを真剣に考えず、今人手不足だから来てくださいという雑な受け入れ方では、色々なところに被害が出てきて当然です。様々な制度のあり方も含め、もっと関心を持って議論を重ねていく必要があると思います。
望月:外国から来た人が、日本で暮らしていくうえで社会に対して自分の声を届ける回路があるかという点も重要です。先日、武蔵野市で外国籍住民にも住民投票への参加を認める条例案が話題になりました。こうした条例はすでにほかの自治体でも導入例があるのですが、インターネット上などで外国人排斥的な議論のターゲットにされてしまい、可決しませんでした。
そうした議論を見ると、外国人が役に立つ範囲で受け入れるのは良い、けれどもコミュニティの一員として物言うことは認めないという、都合の良い線引きがあることがわかります。同じ地域の対等な住民であるとは思っていないわけです。
コムアイ:外国籍の人もその地域に住んでいる住民であって、自分たちの住んでいる街をよくしていこうと思うだけなのに、と思ってしまいます。
望月:日本の国籍法は血統主義で、両親が外国籍であれば外国籍という仕組みになっています。つまり、日本生まれで日本語ネイティブで日本にしか住んだことがなくても投票できないという人がたくさんいます。国籍や参政権など、国の根幹部分は狭い意味での「日本人」に限定し、その外側に多くの人を受け入れるという構図になっています。
コムアイ:昔の男性だけの選挙権とかに似ている構造ですね。そこにいる全員が参加できず、一部の人には考える能力がないと決めつけている。これも差別の一端に感じます。
望月:女性や外国ルーツの人など、それまで制度から排除されてきた人が参加できるようになることは変化につながります。だからこそ抵抗も起きます。今はあらゆる局面でリーダーは日本人男性ばかりですが、リーダーのあり方が変わることは重要です。そのためにも社会や制度のあり方を開いていく必要があります。
コムアイ:帰化させ同化させることは、それを理解して違ったものを受け入れるという形ではないですよね。人のアイデンティティには、いろんな種類があります。血縁的なものは変えられないですが、ある地域に受け継がれる文化や慣習などが身体に染み込んでくるうちに、だんだんと違う地域に接続していくこともあります。
望月:文化の継承の問題もあります。言語もその一部です。家庭の外では日本語を使う場面が多いと思いますが、家庭の中ではどうか。それぞれの家庭によって違います。家族のルーツにつながる文化や言語を強く残している家庭もありますが、そうでない家庭もある。国籍だけが外国という場合もあります。
その背後には社会の中にある差別の問題を見過ごせません。在日コリアンの方など、社会の中での差別があるために、名前や振る舞いを変えたり隠したりせざるを得ないという状況をつくってしまっています。子どもにルーツをあえて伝えないという場合もあるでしょう。文化や言語が世代を超えて伝わりづらくなる、自分の家族やルーツとのつながりがわからなくなってしまうというのは、そうした社会のあり方から強いられたものであることも多いのです。
コムアイ:どうしたら外国籍の人と共生していくことができるのでしょうか。フランスの人と結婚し移住した知人がいて、移住後3ヶ月ほど学校に通い、フランス語やマナーなど、フランス人としてではなくフランスで生活するために必要なものを教えてもらっていました。コストはかかるかもしれないけど、こうした公的サポートがあると外国籍の人と地域住民や社会とのトラブルも解消されていくはずです。
望月:移住した先の言葉や習慣を学べる機会が公的に整備されていることは、大きな違いをもたらすと思います。ドイツなどでもそうした仕組みが作られているそうです。日本でも日本語が十分にできないことのマイナス面は大きいですが、日本語をしっかり学べる仕組みが整っているとは言えない状況です。日本語ができないと職業選択の幅も狭くなるし、例えば塾代を払えないといった形で子ども世代にも影響を及ぼします。
コムアイ:日本語を話せる人が増えると、自然と対話できるしお友達にもなれますよね。コミュニケーションが取れるとわかれば、受け入れる側も安心できるはずです。
望月:日本語学習の環境はまだまだ整っておらず、本人の努力任せになってしまっています。地域の日本語教室もボランティア頼みのところがほとんどで、しかも週末に1時間だけ勉強、あとは職場のOJTでどうにか学ぶというのでは上達できなくて当然です。結果として外国人の方達が抱える脆弱さには社会的な原因があります。
コムアイ:日本では、言葉を話すことに求めるレベルの高さが問題ですよね。流暢じゃなくても、相手とコミュニケーション取れればいいはずなのに、文法や正しさを求めがち。私も、英語を覚える時にそうしたハードルが足かせになっていました。今は伝わることが大事だと考えるようになって、文法や細かいことは気にならなくなりましたが、最初は苦労しました。日本人が内面化していることで日本人を苦しめていることもありそうです。
望月:もっと、ラフになっていいはずですよね。
コムアイ:色んなレベル、色んな日本語があっていいはずです。インドや中国にいたら、相手も自分も母語じゃない英語でしか話せない状況で、そうしたときに互いにどう歩み寄るかという気持ちになります。そうした前提でいたいし、人間同士が対話したいから歩み寄るという光景に希望を感じます。
写真:「BLOOMING EAST」のリサーチで出会ったコムアイとアウファさん
コムアイ:もっと、社会で議論できる場があっていいはずですよね。外国籍の人が仮に参政権を持っていなくても、仮に持っていた場合、誰に投票するか、なぜ投票したかを議論する場所があってもよさそうです。
望月:日本で生まれ育った外国籍の人もたくさんいます。新しく来た方たちも含め、日本で暮らす人が誰であれもっと声をあげやすい社会に変えていく必要があります。私は移民や外国籍の人たちの声を聞いて伝えるということをしていますが、もっと本人の声が聞かれるべきだし、もっと色々な人の声が届く社会にしたいと思っています。
現実には、声をあげることのリスクが高く、黙っていたほうが安全という状況に置かれている人も少なくありません。この社会が見えなくしてきた存在、聞こうとしてこなかった声に向き合っていくべきだと思います。
取材:清宮陵一、小出有華(NPO法人トッピングイースト)、編集:江口晋太朗(TOKYObeta.Ltd)
カバー写真:リサーチを通じて出会ったコムアイさんとエフレムさん一家
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コムアイ
アーティスト。1992年生まれ、神奈川育ち。ホームパーティで勧誘を受けて加入した「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内だけでなく世界中のフェスに出演、ツアーを廻る。2021年9月に脱退。2019年、オオルタイチと屋久島でのフィールドワークをもとに制作した音源「YAKUSHIMA TREASURE」をリリース、公演を重ねる。新しい音楽体験「YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from 屋久島」をオンラインにて公開中。現在はオオルタイチと熊野に通い新作を準備中。2020年からはOLAibiとのコラボレーションも始動。北インドの古典音楽や能楽、アイヌの人々の音楽に大きなインスピレーションを受けながら音楽性の幅を広げている。音楽活動の他にも、ファッションやアート、カルチャーと、幅広い分野で活動。2020年にアートディレクターの村田実莉と、架空の広告を制作し水と地球環境の疑問を問いかけるプロジェクト「HYPE FREE WATER」が始動するなど、社会課題に取り組むプロジェクトに積極的に参加している。
望月 優大
1985年生まれ。ライター。著書に『ふたつの日本「移民国家」の建前と現実』(講談社現代新書)。認定NPO法人難民支援協会が運営するウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」の編集長を務める。ほかにニューズウィーク日本版でのコラム連載、朝日新聞論壇委員など。子どもの貧困など様々な社会問題に取り組む非営利団体の支援にも携わっている。