• share

隅田川道中 遊覧体験「渡し」プログラム 一日目
「言葉の川を旅する」実施レポート 

文:東彩織
撮影:高田洋三

■ 川の流れのように言葉を紡ぐ。詩人・高橋久美子、ラッパーGOMESSと巡る隅田川上流部の旅。

隅田川全域を舞台に展開された「隅田川道中」。10月29日、切腹ピストルズが隅田川沿いを練り歩く傍ら、屋形船に揺られながら言葉を紡ぐワークショップ「言葉の川を旅する」が行われました。ラッパーのGOMESSさん、詩人の高橋久美子さんを迎えて、隅田川上流の東尾久から千住大橋までの旅をレポートします。 

■ 風景、音、匂い、空気を感じながら、言葉を見つける

晴れ渡る秋晴れの日。屋形船「篤姫」が東尾久の船着場に到着。今回のワークショップの講師と参加者が一斉に乗船します。船着場近くの荒川区宮前公園では「宮前ソラのマルシェ」も開催。マーケットのお客さんたちにも見送られながら、屋形船は出発しました。 

船清さんの屋形船「篤姫」に乗り込みます

まず初めに、ワークショップのナビゲーター ikomaさんから隅田川道中の説明とワークショップについて簡単なアナウンス。そしてラッパーのGOMESSさんを迎えてラップ詩を作るワークショップがスタートしました。2人の軽快なトークと共に、言葉をどう紡ぐか、説明がなされます。今回は船に乗りながら、目に映ったもの、感じた音、匂い、空気、など、それぞれが感じたものを言葉にして書き留めてみよう、とのこと。8つの言葉・単語を集めて、最後に繋げてみるという作業です。 

左:GOMESSさん、右:ikomaさん 

早速、言葉集めをスタート。屋形船のデッキに上がったり、座敷の窓から外を眺めたり。それぞれ思い思いに川からの風景を見つめます。少し先の河岸では切腹ピストルズの練り歩きが。その音が徐々に遠くなったりまた近くなったり、船上の旅はゆっくり川を下っていきます。 

デッキに立って流れる風景を見ていると、少し冷たい風が体に当たります。ぼんやり風景を眺める人、軽くおしゃべりをする人、写真を撮る人。参加者の皆さんそれぞれの過ごし方で言葉を探していました。 

あっという間に20分が経過。船内の座敷に戻って、8つの言葉を繋げます。発表の初めに、GOMESSさんが書き留めた言葉を発表してくださいました。単語を繋げて淡々と声を発するだけの言葉の羅列ですが、不思議とリズムが生まれ、すでに短い音楽になっているような感覚に。船内の皆も「おおっ」と一声。 

続いて参加者の皆さんの発表に移り、短い8つの単語を、各々が自由に繋げて声に出してみてもらいます。 

かもめかもしれない タイタニックもしかして 
橋げた 手すり こけ なるとってどんな字 のぼりばた 畳かゴザ

秋の風が齧った小さな森 とりあえずついていく子供 日が当たらない洗濯物たち 
銀の折り紙浮かべた水面 秋の訪れを感じる前髪 名前を答えてくれない鳥 
ペンから香るシンナーの臭い 送電塔の続きを見る 

単語を並べた人、語感を意識した人、韻を踏んでいる人……。参加者それぞれの感性で言葉が紡がれました。面白いことに、一見、連関性がない一つ一つの言葉が、声で繋げていくと一つの流れになってすっと耳に入ってきます。小さな言葉を紡いでいくシンプルな作業ながら、まるでラップが生まれる瞬間に全員で立ち合っているようでした。

■ 川、風、街から言葉を紡ぐ

続いて高橋久美子さんへバトンタッチ。今度は、波に揺られながら吟行を行います。 

始めに、持参した詩集から一編の詩を読んでくださった高橋さん。詩に耳をすました後、今日のお題へと話題は繋がります。「川」「風」「街」そして「私」という言葉を使って、1行詩を作るというテーマが伝えられました。「川が〇〇」、「街の〇〇」といったふうに、助詞を挟んで短い1文を作ってみよう、とのこと。先ほどの単語集めとはまた違ったアプローチです。 

左:高橋久美子さん

再び言葉を集める自由時間となりました。参加者はまたデッキに上がったり、座敷から川面を見つめてみたり。川・風・街・私という言葉を取っ掛かりに景色を眺めると、先ほどとはまた違った言葉が紙に書き留められていくようでした。屋形船はスタート地点から少しずつ下っていき、ゴール地点の千住大橋まであと半分。 

再び集合して、高橋さんから次の手順についてアナウンス。テーブルごとに一行詩を繋げて、連詩にしてみよう、とのこと。3〜5人ほどのグループで、今作った詩を繋げます。これがなかなか悩ましい。誰の、どの言葉を、どの順番で繋げるといいか。ワイワイ相談します。高橋さん、ikomaさんも各テーブルを回ってサポート。 

最終的に、それぞれのグループで一つの連詩が出来上がりました。 

川は怖い
風もぬるい
私は弱い
街はオモチャ
光ることが
できない私

風がふくらむ ゆれる
川はついてこない
臭いも 音すら色さえもないのが川
風がほほに触る
葉を落とさない風
風は運ぶ
乾いた風こそ待ちはせぬ
窓から見るとゆれる街
街が流れる
街は残る
隅田川の渡しも街、見えず
私は息を吸う

川、風、街、私という言葉がそれぞれの一行詩を繋いで、見事な連詩になりました。一人一人マイクを回しそれぞれの声で発表してもらうと、先ほどのラップの言葉とはまた違ったリズムで言葉が流れていくのが分かります。同じ船上からの風景を元にしつつも、不思議と先ほどのラップ詩とは全く異なる質感の言葉が生まれたようでした。個々の小さな言葉から、複数の人の言葉が連なり、声に出して詠んでいく。その日その場で出会った参加者の皆さんの言葉が、川の流れのように絡み合って詩が生まれた瞬間でした。 

全てのテーブルで発表が終わると、船はすでに千住大橋付近の船着場に到着しています。GOMESSさん、高橋さん、ikomaさんへの拍手と、参加者同士に向けたお互いの拍手で「言葉の川を旅する」は幕を閉じました。  

大きく揺れる船内から船着場に降りると、切腹ピストルズと「千住だじゃれ音楽祭」のメンバーが音楽を奏でているところに遭遇。ワークショップの参加者もそれぞれ、練り歩きについていく人、街に消えていく人……ちりぢりに船を去っていくのでした。 

※文中の詩は、参加者の皆さんが当日作った言葉・詩から一部抜粋させていただきました。 

◆ 開催概要 ◆

●日時|2022年10月29日(土)14:00~16:00 
●場所|隅田川上流部 
●会場|船清(屋形船)
●スケジュール|
 14:00 東尾久船着場 集合 <東京都荒川区東尾久7丁目1−1>
 14:25 東尾久船着場 乗船〜出発
 16:00 入舟船着場 下船 <東京都足立区千住橋戸町>
●参加人数|20人
●参加費|¥4,000(一般)、¥3,000(学割) 
●出演|高橋久美子、GOMESS、ikoma(MC)

■出演アーティスト

高橋久美子(作家、作詞家、詩人)

1982年愛媛県生まれ。音楽活動を経て文筆家に。詩や、小説、エッセイの執筆の他に、詩の朗読や、絵本の翻訳、アーティストへの歌詞提供も多数。近著に、エッセイ集「一生のお願い」、小説集「ぐるり」(共に筑摩書房)、詩画集「今夜 凶暴だから わたし」(ミシマ社)など。

GOMESS

1994年9月4日生まれ 、静岡県出身。第2回高校生ラップ選手権準優勝を機に“自閉症と共に生きるラッパー”として注目を集め、自身の生き様を歌った楽曲「人間失格」、「LIFE」は見る者に衝撃を与えた。以降、NHK「おはよう日本」や「ハートネットTV」で特集を組まれるなど、独特の思想、ライフスタイルが様々なメディアで取り上げられていく。また、中原中也の詩「盲目の秋」を朗読カバーした楽曲は中原中也記念館に展示されたりとポエトリーリーディングでも才能を発揮する。2015年、民謡を唄う朝倉さやとのコラボ楽曲「River Boat Song」を収録したアルバム「River Boat Song -FutureTrax-」が第57回日本レコード大賞企画賞を受賞。同年よりSEKAI NO OWARI主催のライヴイベントに4年連続で出演。2018年、Aqua Timezの楽曲「えにし」に客演参加。2019年、東海テレビの公共キャンペーンCM「見えない障害と生きる。」に楽曲提供&出演し、AACゴールドやギャラクシー賞をはじめ数多くの広告賞を受賞。そして2020年には、山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)らと共にプロジェクトバンド・YGNT special collectiveに参加するなど、ジャンルや体裁に収まらない多種多様な表現を繰り返し、唯一無二の存在として“生きる言葉“を吐き続けている。

ikoma

イベントレーベル「胎動LABEL」主宰。
渋谷のラジオ FM 87.6Mhz ポエトリーリーディング専門番組「渋谷のポエトリーラジオ」パーソナリティー。