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2018年4月 BLOOMING EAST 勉強会「OUR MUSIC」
第4回「OUR MUSIC」レポート

BLOOMING EAST「勉強会」とは

私たちは様々なかたちで日々音楽に触れています。そんな普段何気なく耳にする音や音楽が、ふとした場所で聴こえてきたときに風が抜けるような心地よさを感じたことはありませんか?

「音楽」には、そんなふうに空間そのものの温度や、その場に居合わせた人々の体温がほんのりと上がってしまうような力があるような気がします。

BLOOMING EAST勉強会「OUR MUSIC」では、そんな「音楽」や「音」がもってる本来の響きと「公共」との関係について、丁寧に考えを巡らせていきます。そもそも、音と音楽の違いってなんだろうとか、耳に残る音楽や聞き流してしまう音の差異や区別はどうやって生まれるのかとか、そんな根っこのことを考える勉強会です。

第4回「OUR MUSIC」

これまでのおさらい

今回は、4回にわたる勉強会の最終回。はじめに、これまでの3回の内容について簡単におさらいをしました。第1回「音になってみる」、第2回「リスナーになってみる」、第3回「公共になってみる」と、異なるテーマ・異なる角度で「私たちの音楽」について考えてきました。(第3回目までのレポートはページ下部の関連イベントよりご覧いただけます。)第4回「OUR MUSIC」では、結局「私たちの音楽」ってなんだろう?という最初の問いにみんなで立ち返り、最終的にそれぞれが活動する領域に翻って考えてみることを目標にします。

OUR MUSIC(私たちの音楽)とは?

次に、トッピングイースト理事長の清宮陵一さんより、これまでに携わってきたアートプロジェクトの現場での経験から、「OUR MUSIC」を考える上で興味深い点についてお話がありました。OURと言うからには、その領域の中で、集団的に共有できることを拡げていく必要があります。しかし、たとえば誰かがつくった曲を公共空間にただ流しても、それは「誰のものでもない音楽」になってしまうかもしれないし、あるいはあるアーティストの作家性がどんなに面白くても、その面白さが業界の構造とマッチングしなければ、それは人々へと拡がっていきません。このように、あるものごとをOURにしていくためには、所属する領域の構造を鑑みた上で、それを拡げていくための工夫や仕掛けが必要不可欠になってきます。

OUR MUSICと一体感/バラバラさ

次に、参加型の音楽実践について書かれた修士論文に基づいて「OUR MUSIC」について考えてみるようなトピックを紹介しました。音楽実践をおこなう上では、よく「一体感」という言葉が使われますが、しかしそれはよく考えると「一体感」を感じられない人を疎外してしまう規範にもなってしまいます。もう少し細かく現場で起こっていることをみてみると、もっと複雑な相互作用が起こっているはずです。論文の中で分析をおこなった「野村誠 千住だじゃれ音楽祭」のワークショップでは、事前に枠組みや関わり方を決めることなく、そこに集まった異なる背景を持つ人々どうしが、それぞれに行為しながら結ばったりほどけたりすることで、偶発的に音楽が立ち上がってきます。そこでは、ワークショップのファシリテーターや、その場をつくる人は、それを触発するような環境を整えたり、仕掛けをつくったり、きっかけを出したりしているように見えます。このことが、あるものごとを無理なくOURにしていくための仕掛けを考える上でのヒントになりそうです。

専門領域の構造

次に、あるものごとをOURにしていくにあたって、誰に何をどうやって届けるか?を考えるために、参加者それぞれの専門領域の構造を書き出して発表するワークをおこないました。音楽業界、アート業界、アカデミックな業界、NPO法人の業界、印刷業界など、さまざまな業界についての構造が共有されました。それぞれの業界では、多様な立場の人々が独自のシステムで関係を築いていますが、新たな人々に新たな何かを届けたい場合、それを少し組み替えたり、新たな回路をつくったりすることが必要である、ということが浮き彫りになってくるような時間でした。

OUR MUSIC

最後に、これまでの勉強会を経て、それぞれが感じたOUR MUSICについて共有し、話し合いました。それぞれの参加者の日常をとりまく関係性の網の目を越えて、普段あまり関わりのない人々と、新たな出来事をどう生み出していくのか、つまり、新しいOURの領域をどう作っていくのか…。このようなことを、この勉強会を通して考えてきたわけですが、もしかすると、この勉強会自体もひとつのOUR MUSICの試みであったのかもしれない、という指摘が印象的でした。ここで得た対話の経験が、それぞれの日常の中で新たなOURをつくっていくためのきっかけになることを祈りつつ、報告を終わります。

  • 石橋 鼓太郎(BLOOMING EAST プロジェクトメンバー)

    東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科修士課程。専門はアートマネジメント。多様な人々が参加する音楽の場おける相互行為の様態に興味を持ち、研究・企画運営・演奏を横断しながらさまざまな実践を続けている。2012年度より、足立区千住地域を中心に展開するアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」の一企画「野村誠 千住だじゃれ音楽祭」の運営を担当している。2016年アカンサス音楽賞受賞。